2003年10月4日
秘伝の味と、幻の朝鮮漬け

 よく「おふくろの味」といわれるが、それは味噌汁だったり、イモの煮付けだったりする。味噌汁は普通の家庭では通常市販の味噌を使うので、おふくろのさじ加減は濃度を調整するしかなく、とくにおふくろ独自の味がでるわけではない。

 小生の母は今年85歳で、幸いにも健在である。いままでありそうでいて他の家ではみられない調味料がある。もちろんどこにも市販されていない。これを秘伝の味というのだろう。しかし、隠しておいても得になるわけではないので教えましょう。

 昭和30年代、鋳物や機械の産業が盛んだった埼玉県川口市には在日朝鮮人も数多くいたものだった。父の仕事の関係から、交流もあり、当家に訪れ、茶のみ話をしていったものだった。そこで当時おふくろが教えてもらったものだ。

 まず生にんにくを細かめのおろし金ですりおろす、これに「味の素」を少々加えたりするが嫌いな人は別に入れる必要はない。さらにほぼ同量の赤唐辛子粉をいれてまぜる。醤油を適量かけて練り上げる。唐辛子と醤油の量によって調節するのだが、出来上がりは市販の味噌くらいの硬さになる。

 ある程度の量を作り置きし、ふた物の器にいれて冷蔵庫で保存しておく。
醤油の塩分が効いてるためか、3−4ケ月は品質劣化はみられない。
 赤唐辛子は韓国食材店などにあるもので、日本製の陳皮(みかんの皮)の含まれた「一味唐辛子」ではだめである。

 いわゆる「コチジャン」とちがうの?、ぜんぜん味がちがうのである。
当家では「にんにく唐辛子」と呼んでいるが、もちろん正式名称など無い。
小皿に醤油をたらし、この「にんにく唐辛子」を少々いれて溶かし込む、ちょうど「わさび醤油」の感覚だ。この醤油に白菜の浅漬けをちょいと付けて食べると辛さとにんにくの香りがいわゆる「キムチ」とは異なる独自の味をだして、白ごはんの食がすすむ。夏に食欲が出ないときはかなりいける。フィリピンからやってきた職人さん達にだしたところ白ごはんの上にまるでトーストにバターを塗るがごとくに塗りつけ、うまいうまいとよろこんで真っ赤なごはんを食べていたそうだが、日本人にはとても真似はできない、頭髪が抜けそうな辛さである。

・白菜なべ
 こぶダシをとって白菜と豚肉をいれて鍋にする。味は塩を使い、なべの状態で味をつけてしまう。
 めいめいの小鉢に野菜と肉およびスープをとるが、ここに先の「にんにく唐辛子」を少々いれて溶かし込む、単純だがなぜかうまい。特に寒い冬には最適である。ビタミンCが豊富でカゼ予防にも最適。

・焼肉
 豚肉を「にんにく唐辛子」を醤油に溶いて作ったたれに漬け込みこれをすき焼き鍋のようなもので鉄板焼きにする。においも味も強烈だが、辛くて後を引く味である。においがすごいせいか家庭内では最近ほとんどやらなくなってきた。

・幻の朝鮮漬け
 これもおふくろが在日の人から教わったのであるが、もう何十年も作ってない。その理由をきいたら「手間がめんどくさい」とのことだった。

 今でこそ「キムチ」はまるで日本語のようになっているが、当時はそんな言葉は聞いたこともなく「朝鮮漬け」と呼んでいた。小生の知っているおふくろの「朝鮮漬け」はこくがあって実に美味かった記憶がある。まだ、小学生になるかならないかの頃で味覚の原体験であろう。この味を覚えてるせいか市販されている「キムチ」は似ているけれども別の味に思える。そして、どれを食べてもあのときの味にはかなわないのである。正式なキムチの作り方ではなく亜流だったのかもしれない。だけどすこぶるおいしいのだった。

 小生の記憶の中では「すりごま」、「豚ひき肉に火をとおしたもの」、「にんにく唐辛子」「醤油」を混ぜたものを浅漬け白菜にからめて漬け込んだようだ。ただ記憶に無いなにか別なものをいれてる可能性も十分にある。お袋に詳細を聞いてみたがボケているのか忘れてしまったか、要領を得ない。

 この豚がこくを出していたのかもしれない。本場の人に聞くと「アミ」「魚醤」「イカのはらわた?」などを使用し発酵による酸味のバランスをとるらしい。この酸味は日本人には微妙に好みの差が出るかもしれない。以来ずっと食べてないので「幻の朝鮮漬け」である。