友と猫の話

 小生の同級生であったAが亡くなってもう1年は経つだろうか。
 そこそこの一流企業に勤めていた男、よくあることかもしれな
いが、傍から見ればうらやましいようでも、本人にかかる責任や
ら、プレッシャーは当然一流レベルで、そのため押しつぶされた
り、心や体を病んだりする者も多いだろう。小生の知ってる範囲
では、全くハッピーで定年を迎えた人はあまり聞かない。
 小生の年代では、「ハラスメント」などという言葉も概念もな
い時代だ。
 なんといっても組織の中にあっては理不尽な上司や常識が横行
したとしても不思議はない。小生のようなポンコツ自営業なら理
不尽な上司や相性の悪い人間関係にわずらわされることはない。
 自分より上はお客様だけなので、仕事が回ってさえいれば、精
神を病むことはないので幸せなのかもしれない。
 逆をかえせば、「仕事がない」、「金がない」のが最もきつい
ストレスとなる。

 さて、彼は定年退職後、自分の事務所を作って独立した。どう
いう理由か知らないが元々結婚していた嫁とは離婚していた。
 集合住宅を住居兼事務所として彼の第2の人生がスタートした。
会社といっても彼一人の事務所である。そんな事務所のパソコ
ン環境構築で小生はお手伝いさせていただいた。パソコンのセッ
トアップに訪問していたら女性がいた。「オレ、結婚したんだ。」
と照れながら言っていた。
 どんなご縁か知らないが、イケメンを論ずることがはばかられ
る高齢者突入前のジジイに寄り添ってくれる女性がいるとは、ヤ
ツも幸せ者だ。俺だったらどうだろう・・残念ながら、そんな存
在の女性は全く思い浮かばない(思い浮かんじゃダメでしょ!)

 現役時代の過酷な労働がたたったのかは知らないが、彼の健康
状態は良いとはいえず、独立した時の張り切りから徐々に病院の
お世話になることが増えてきたようだ。そんな時事務所に訪問し
たら猫が居た。比較的人懐こい子猫で小生とも遊んでくれた。
「猫飼ったのか、お前コイツのためにも長生きしなきゃなあ。」
と言ったのを覚えている。しばらくしてから、訪問したら、猫が
もう一匹増えていた「一匹じゃ寂しいだろうから、もう一匹飼う
ことにした。」と言う。二匹目はシャイな性格で、小生が訪問す
ると部屋の奥の方に潜み気配を消している。丸見えなんだけど。
 それはいいが、彼は大きな手術を何度か繰り返しておりおそら
く猫より先に天国に行くだろうとおもわれた。アイツが先に逝っ
て、残された二匹の猫はどうするんだろう。場合によってはオレ
が引き取ってもいいかという思いが頭をかすめた。仮に猫は引き
取ったとしても残された奥さんの方はムリだな。くだらない妄想
が頭に回るのが小生のイケナイ癖である。
 
 死期を覚悟しながら、アイツの面倒を最後までみてくれた奥さ
んを大したものだと尊敬するし、ありがとうと言いたい。

 残念ながら、襲い掛かる無慈悲な病に勝てずヤツは召されてし
まった。残された奥さんは事務所を整理し、二匹の猫を連れて実
家に戻ったようだ。あの猫たちは元気に暮らしてるだろうか?
 アイツの愛した猫と奥さん。いつまでもお元気でいられること
を願っている。