小さな独裁者 小生、座禅とか、トレーニングジムとかあまり好きではありません。あとダンスも好きではありません。なぜかというと瞑想してても結局は何もしていないのが座禅であり、一生懸命汗を流して走っても、その場から一歩も移動していないランニングマシンや、ダンベルを動かしても移動させるわけではなくまた同じ場所に戻す。つまりまったく生産性がないのである。同様にダンスも同じで、例えばボックスステップなぞがあるが、あの歩いているようなステップで結局はおなじところで足踏みをしているようなもの・・といったらその道を究めた諸氏のお怒りをかうだろう、誠にもって申し訳ない、ディスるつもりはありません。各々、健康や楽しみで行っていると思うので、逆に小生のほうがおかしな奴だと言われてもかまいません。 さて、瞑想なるものを何もせずに座っているだけというのが何かムダのように思えるわけだが、実は何かを黙々と行っているときに同時に瞑想的な頭の使い方をしているのである。この何かというのは簡単なことでは掃除である。掃除なるルーチンは「ごみを見つける」「回収除去する」の繰り返しであまり脳を使わない。もう少し時間をたっぷりかけるものとしては庭の雑草取りがある。 我が家には猫の額の千倍くらいの庭があり(どんな広さだ?)これが夏になると結構雑草でボーボーになる。いつのころからこの雑草取りは小生の担当になってるようで家族はあまりやらないのである。黙々と雑草を取る作業は肉体にも負荷がかかる。お金を払ってジムにいくより、はるかに生産性が高い。 お金を払って雑草取り業者に依頼し、自分はお金を払ってジムで疲れてくるというのはケチな小生には考えられないことなのである。 さて、電話もかかってこず、誰からも邪魔されない自分だけの時間。無心に雑草をむしり取る単純作業であるがゆえに、瞑想のごとく頭にいろいろな思い考えが踊りだす。まず雑草なるものがなんであるかというところからスタートする。我が庭は我が国ランドなのである。ここにこちらの意図しない植物が繁茂することが許されないのである。植えた花木はもちろん成長を期待するものの、頼みもしない植物が、勝手に生えてくるのである。スギナ、ドクダミなど抜いても抜いても根治しない、しかも繁殖力が旺盛ですぐに花を咲かせ種を生成するときた。こんな連中を前にすると自分がこのランドを守る独裁者の立場をとってしまうのだ。我がランドの異端者、違法移民者は容赦なく除去する。この庭の植物たちの生殺与奪の権は我にある。もはや自分はスターリンであり、毛沢東でありヒトラーなのである。 可愛い黄色の花を咲かせるタンポポもやがては大量の綿毛の種をばらまく侵入者。男の心に潜む暴力的でありサディスティックな感情が、独裁者という特権を与えられ、それが雑草除去という行動に走らせる。逆にそうとでも思わなければ、単につらいだけの作業だ、その時間できれば寝ていたいくらいなのである。 まあ、やりたくない作業を少しでも楽しく?するにはサディスティックな喜びの詩を吟じながら、黙々と地面と雑草に対峙するのである。 俺の知らないこの草はいらない ブチッ!(雑草を抜く音) 芽が出て数週間なのに花を咲かせ、生殖行為? させねーよ ブチッ! 葉の裏に胞子を付けたシダ、花粉症の俺に歯向かうつもりか ブチッ! ドクダミ野郎 潜伏した地下組織(地下茎)で抵抗しよる、地上の葉をせん滅して、地下への兵站を断ってやる。 ブチッ! 猫じゃらし おっと花までは許しても種を作ることは許さん ブチッ! 石の隙間の雑草、そんなところに隠れたつもりだろうが、見つけたよ。 ブチッ! 「まだ芽を出したばかりの赤ちゃんなのです。どうかこの子だけは・・」ふっ 芽を出したばかりの雑草、花開く青春も、ミツバチのキスも知らぬまま終わるのだ。 ブチッ! 「どうして僕たち雑草は除去されるのですか、あそこの植物には肥料あげてるのに、あんたは植物を差別している差別主義者だ。」うるさい ブチッ! 「雑草にも命がある。生きる権利がある。」うるさい ブチッ! 小生相当性格悪いですな。雑草に対する虐殺者だろう。とはいえ こうでも考えなきゃ面倒な作業やってられない。徹底殲滅の怪物が、徐々に庭をクリーンにしていく。 こんな残忍な妄想を頭に泳がせながら作業を進めていると、チクリと指に痛みを感じた。ゴム引き作業用手袋をしていたが、無防備にバラのトゲをつかんでしまった。「イタッ!」、大輪のバラならいいが、雑草の間に紛れるような小さなバラ、花も大豆くらいの小さなもので、それほど目立つものでもない。 それよりも何よりもこの独裁者のオレ様にトゲの一刺しをもってして歯向かってきたのである。許さん!「バキッ! バキッ! ブチッ! ブチッ!!」徹底除去。 しかしこれが後で大問題になるとは気が付かない。 大汗をかき、長時間のしゃがみ込みで腰と膝の痛みを感じながら立ちあがる。腰に手を当て、少し反るように腰を伸ばす。ボーボーの雑草が除去され庭はすっきりした。ちゃんと手入れされている庭になった。全体を眺めて達成感に浸る。汗でビショビショのシャツを脱ぎ、そのままシャワーで汗を流す。冷房の効いた部屋で冷たい麦茶を飲みながら一息つく、そのまま横になって疲労感に導かれるように仮眠する。 おそらく30分くらいの仮眠だろう。体の節々に痛みは残っているものの疲労感は軽減され、目を覚ます。 こんな時にかけてもらいたい言葉があるとすれば「ご苦労様」とか「すごく庭がすっきりした」あたりであろう。 ところが妻がこんなことを聞く「あそこのバラはどうした?」 「えっ!」何のことをを聞いてるのか一瞬考えた。もしかするとあのバラのことを聞いてるのか、自分では分からないが、傍から見ればきっと大いに「目が泳いで」いたに違いない。 「あのバラは・・・」色々言ってるが後半何言ってるか記憶がない、俺に対する罵詈雑言の乱射であることは覚えている。「あなたは残酷だ!」という言葉は覚えている。確かに自分は雑草に対するジェノサイダーであることは間違いない。雑草からすれば自分がヒトラーや毛沢東に見えることだろう。 「そんな文句を言うなら、庭の雑草取りはもう二度とやらない。これからは君が全部やってください。すきなようにやってください。」と捨て台詞を・・・・・・・ギリギリ唇から出そうな手前で我慢・我慢。 危ない危ない、下手をすると最終兵器のスイッチが押されて人類滅亡いや家庭滅亡になるかもしれない。 また夏が近づいてくる、雑草たちも調子づく、雑草と戦う孤独な戦士は結局この俺なのだ。自分が独裁者と思ってはいたが別のフェーズでは自分より上に別の独裁者がいたということだ。 風呂場のタイルの目地にピンク色のカビが生じてくる。 この間除去したばかりなのに、もう数日でピンクに繁殖しておる。 おまえら風呂場でピンクムードになりおって、ここはラブホじゃねぇ! カビキラー ブシャー! あ、もういいですね・・・ |