恋人よ

 色づいた木の葉が、冷たい風に踊らされ、道端に枯葉の吹き溜まりを作っている。
 はらはらと舞い落ちる枯葉を見れば自然と「枯葉散る夕暮れは・・♪」と五輪真弓さんのヒット曲が思い浮かぶ。

 あれは、卒業して初めての就職先でのことだった。横浜とはいっても山のほうで仕事先近くのボロアパートの独り暮らし。仕事はきっちり5時には終わる。アパートに戻っても銭湯と夕食、あとは寝るだけという生活。比較的夕方には時間があった。そんな中、どういうきっかけか、社会人の青年たちの集うテニス同好会に誘われた。学生時代にテニスの経験はない。しいて言えば中学時代 放課後、憧れの女子テニス部の練習を教室から眺めていた。村下孝蔵さんの「放課後の校庭で・・♪」の歌詞「初恋」の曲がそのままはまりすぎていた。

 こんなことを言っては身もふたもないが、当時テニスが好きかどうか、興味があるかどうかといえば、それほどでもなかったのである。友達もいない異郷の町で寂しいわけではないが、知り合いが増えるのはいいかもと考えたのだろう。年頃の青年達の集まりに不純な動機が7割、テニスを楽しみたい、うまくなりたいという動機が3割くらいだろう。

 公営のテニスコートを利用し体を動かした後、同好会の仲間は野毛の居酒屋に移動、テニスの話はもちろん色々な会話や飲食が楽しいものであった。テニスよりこの打ち上げの方が楽しかった、テニスの技術はさっぱりだった。運動神経の問題よりはテニスをうまくなりたいという動機がないのが原因と分かっている。(ひどい話だ)

 ほぼ同世代の若者たち、話題といえば仕事のことや恋愛のこと。この中の一人K君は同好会の中ではトップに近い実力者だった。すらりと長身で、顔はシュッとした逆三角計、性格もスポーツマンらしく明るい・・ということなのだが、彼が肩を落としながら語り始めた。

 実はオレSさんに付き合ってくれと言ったんだが、見事に振られた・・

 「ああ・・  この別れ話が冗談だよと笑ってほしい♪」この曲が身に沁みる。Sさんも同好会のメンバー、すらりとしたスタイルで髪の長い美人である。小生が何かできるわけではないが「そうか、そうか、しょうがねーよな。」と聞いてやるだけだった。

 枯葉散るこの季節になると条件反射のように恋に破れたK君のことが思い出されるのだった。
 
 小生といえば、少し気になる娘(こ)にモーションかけたとき(表現が昭和だね)彼女はこう言った。
 「私、寺尾聡さんみたいな人が好きなの」暗いバーなのにサングラスをかけて煙草をくゆらせ酒を飲んでいる。遠くを見ながら「ハバナの風はまだ暑いだろうか?」などと語る男、オレとまったく逆じゃないか。

 町には「ルビーの指輪」が流れていた。