僕の付き合ってきたJBL その3

 HL-89ゴールドウィングドライバー375
 雑誌に載ったゴールドウィングは小生の心がムラム
ラするような扇情的な造形であった。スピーカとは丸
いコーン紙であるという常識から大きく逸脱した形。
 これが、あのモノラル時代の究極の名器ハーツフィ
ールドに使用されていると知ったのはだいぶ後になっ
てからだった。縁あって入手したのであるが、このあ
たりは、その辺の若者がヒョイと買えるものではない。
 米国に行ったときに購入したが、まず、量販店とい
う言葉自体無い時代、米国であっても、その辺の電気
屋さんで売ってるわけではない、現地の人に探しても
らった店での取り寄せ購入であった。後で日本に送っ
てもらったわけだが、日本に着いてから運送会社から
税金のようなものをそこそこ取られた記憶がある。

 HL-89とはこの特徴のあるブラインドのような音
響レンズとホーンで構成されている。さて肝心の音だ
が、レンズがないと、いわゆるホーンスピーカの音で
音はホーンの奥から聞こえてくる。ここでゴールドウ
イングのレンズを付けるとあら不思議、音源がこのレ
ンズの中央湾曲部にグイッとせり出してくる、音がこ
のレンズ部のピンポイントで鳴っているのである。
ドライバは375なので最高域は出ていない。人の声は
素晴らしく、言ってみれば高級ラジオのような音であ
る。

 実はシステムは色々変遷があったものの結局このゴ
ールドウィングは手放してしまった。その理由はこう
だ。オーディオ専門店の「ウェスタンラボ」なる店の
オヤジがこう言った。「ホーンならラジアルホーンが
いいよ。『抜け』が違うよ。」たしかにラジアルホー
ンの音を聞いてみると、クリアで『抜け』がいい。
 ドライバから人の耳に届くまでになるべく余計な物
が介在しないほうがいいだろうというのは正しい。
 音響的な指向性改善の目的の音響レンズはソプラノ
歌手にマスクをつけさせて歌わせるようなものなのだ
ろう。ゴールドウィングはその姿が芸術であり、見て
楽しむものかもしれない。現在375は温存され、ルッ
クス的にはなんの面白味もない大型のラジアルホーン
2350に取り付けられ、見事な再生能力を発揮している。

ツイータ 2405075
 ツイータとして075はもちろん名器中の名器である。
ツイータにもかかわらず直径5cmのでかいボイスコイ
ルでとにかくデカイ音を出せる。本機のプロ用バージ
ョンではロックやジャズのコンサートライブ用スピー
カに組み込まれ、耳をつんざく様な高音エネルギーを
炸裂させている。国産のツイータを使用して、大音量
でジャズを聴く、マックスローチのシンバル連打で突
然国産ツイータはボイスコイルが焼き切れた。075なら
そんなことはあり得ない。自分の耳のほうが先に破壊
されるかもしれない。こういうような非常識の音量で
聴くのは小生ではなく小生のバカ兄であった。 

 当時075を購入しようとしたが、ちょうど、さらに
高域を伸ばし、指向性を改善させた2405が発売になる
という。それなら新型だし2405でしょと2405購入とな
った。基本的には2405は075のホーン形状を回折型に
新設計したもので、磁気回路と振動板ダイヤフラムは
ほぼ同じと思われる。

 音はもちろんよかったのだが音が「細い」と感じ
られた、超高域まですっきりと伸びて、上品なお嬢
様のようだが、なにか物足りない。小生の音の好みと
してはヘップバーンではなくモンローなのだ。
 あっちこっちのシステム移動を経て、ケンリック
サウンド
というところでこの075のホーン部だけを
売っている、そこでこの2405のホーンを外し075タイ
プのホーンに切り替えた、モンローが戻ってきたのだ
った。マニアの間ではこのツイータでしか出ないシン
バルの音があるという。つまりシンバルの音が例えば
2405や国産機の場合は「パシーン」と聞こえる。とこ
ろが075になると「バチーン」と鳴るのだ。こんな音
に慣れてしまうと。一般的なドームツイータではもの
足りないのである。

 音の例えで出色なのはアルテックは「ババーン」と
いう音でJBLは「ズシーン」と言われていた。秋葉原
のナカウラ電機だったか、たくさんのスピーカを並べ
ていい音を出していた。家では出せないような音量で
CCRの「スージーQ」が炸裂していた、ベース、Eギター
は強烈な迫力だ。指の太い大男が、弦をブリンブリン
と弾きまくっている音がした。家で聴くと指の細い
日本人が優しく弾くような音だった。その違いは音量
もあるが、アンプの違いでもある。兄の知人に真空管
アンプ制作の達人がいた。彼は言った「オレだって
マッキントッシュのアンプと同じくらいのものは作れ
るよ。ただしマッキントッシュのトランスがあれば
という前提だけどね。」ここでいうマッキントッシュ
アンプとは、名器Mc275のことであろう。たしかに彼
の作った真空管KT88のアンプで聴く音楽は力強く迫力
があった。なんというか低音が多いとか、高音が出て
るとかそういうことではなく、とにかくフワリではな
くビシッなのである。これがKT88の音かと感じ入った
のであった。金もない学生がいつかはマッキントッシ
ュという夢をそのころ持ったのだろう。



JBL HL-89
アルミ板をジグザグに折り曲げたものを重ねた音響レンズ
 音響機器として空前絶後のあり得ない造形美。
しかし・・・

JBL ハーツフィールド
当時 究極の夢のスピーカと呼ばれていた。
実際の音は聞いたことがないがだいたいの想像はつく。


JBL 2405
クサビ型のイコライザが特徴、ホーンらしい広がりはすてて、スパッと切っている。開口部ではほぼ平面波ではあるが縦ミゾ形状で音波は回折し、水平方向に指向性を広げる。


アルテック A7
映画館などの業務用のスピーカだが、この造形はオーディオマニアのハートをムラムラさせるものがあった。ズシンとくるような重低音も、繊細でさわやかな高音も出ないが迫りくる中音の魅力は見事であった。これが「ババーン」である。


マッキントッシュ Mc275

KT88という真空管がパワフルな音を再生する。小生以前はSQ38FDで真空管のアンプを使っていたが、なんといっても真空管は白熱電球と同じで必ず寿命がくる。その時に適合する真空管が入手できるのかという問題。それがイヤで今は真空管アンプは使わなくなってしまった。